著書「ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う」は、
国政の社会保障制度の企画業務に従事し、
統計データ分析に長けた職歴を持つ坂本貴志さんが著しました。
この本を読むことで、身近な仕事で幸せに働くシニア就業者の方が、大多数いる事を教えてくれます。
また、シニア就業者が生み出す労働の価値が、日本経済全体に好影響を与えていいると述べています。
その統計値の元となるシニア就業者の一人ひとりには、
会社での競争にさらされ、様々な苦難を経験し、
働く価値観を変容させ、現在のシニア就業者に至る人生の物語があります。
著書で語られる内容が、“ししとう”にとって、まさに、なぞるように現在進行形で歩んでいます。
定年後の生き方に迷う身としては、
著書が明らかにしたシニア就業者の生き方は、お手本にすることができます。
しかも、その人達の生き様は、大多数派だと言う事を、統計データで明らかにしています。
このブログは、37年間大手機械メーカーに勤め、60歳定年退職を迎えた筆者“ししとう”が、当事者の目線でお伝えします。
定年後、人びとが、どのような働き方をしているか知らない
人生100年時代、世間一般の人々が持つ、定年後のキャリアイメージがあります。
定年前から、入念に準備に臨み、定年退職後、輝かしい仕事を手に入れた人たち。
一方、定年というイベントを境に、仕事に対するモチベーションを失い、
キャリアを無為に過ごす人たち。
ところが、データから見えてきた事は、
羨望や不安を煽るイメージは、本当の姿ではないということです。
世の中の人は、定年退職後、
シニアがどのような仕事をして、働き方、生活はどうしているのか、全体像を知りません。
確かに、会社で働いている人が、10年後、20年後、自分がどうなるのか、
上司、年配社員を見れば、様子がわかります。
多くの企業で、60歳定年後の継続雇用は、5年ほどで65歳までです。
それは定年後のシニアキャリアの一部でしかなく、その後を知ることができません。
大半の人は、定年後の人々は、どのような働き方をして生活しているのか、分からないのです。
著書「ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う」を読んでわかってきたこと
身近な地域の生活の中で、活躍するシニア勤労者が占めていることです。
生活の困窮を理由に働いているわけではなく、比較的豊かで安定した生活をしています。
そして、ストレスや長時間労働を避けた働き方を選んでいます。
定年後のシニアは、小さな仕事に意義を見い出し、
無理なく続けられる範囲で楽しく仕事をしています。
著書では、そういった人々がシニア就業者の大多数であることを、
数々のデータ分析で解説しています。
なぜ小さな仕事をすることで、豊かな生活ができるのか
それを解く鍵は、シニア家庭の家計収支を明らかにすることで見えてきます。
著書では、年齢毎の家計支出、収入と支出の差、純貯金等のデータなどで、
家計経済の構造を明らかにしています。
著書の中、60代後半以降無職2人世帯の月収支グラフでは、以下の内容が分かってきます。
- 50代後半から、収入が減りますが、同時期に支出も減ります。
- 65歳以降支出は、30万円から25万円ぐらいまで縮まります。
- 60~64歳まで、収入は減っても継続雇用で働いているので収支は5.2万円の黒字です。
- 65歳以降、勤労収入から年金収入に移りますが、7万円から3万円の赤字になります。
- この無職の夫婦世帯では、毎月の数万円の赤字を、平均2000万円程の預貯金で賄えています。
老後は2000万円不足する!と「年金2000万円不足問題」として、
マスコミが取り上げたことがありました。
実際は、
平均的な無職夫婦2人世帯が、老後を、預貯金で安心して生活できている事を、
あえて悲観的な意味にとらえた報道だったと、
“ししとう”は、定年退職関係の本を読んで知りました。
ここでは、“ししとう”の家計収支の実績と予測の期待値データを公開し、対応策を紹介します。
ししとうの条件
・60歳で定年退職し現在無職
・夫婦2人
・妻は、現在パートタイム勤務で56歳、以前は、15年ほど勤務した会社員だった
・持ち家で住宅ローン完済
・子供2人は既に独立
定年後の世帯収入
- 妻が60歳までのパート収入
- 夫の定年退職後の失業手当 リンク失業手当の給付手続き
- 夫の企業年金 リンク関連記事
- 夫の公的年金
- 妻の定年退職後の失業手当
- 加給年金 年下配偶者が65歳年金開始まで支給 リンク関連記事
- 妻の公的年金
収支を安全領域にするために必要な金額が明確になりました。
65歳の年金受給開始まで、黒字とはいえギリギリです。
65歳から年金が始まり、収支は黒字化します。
70歳からは、妻の年金も始まり、安定した生活が可能になります。
年金が始まるまでは、月5万円程のアルバイトをすれば、経済的に安心した生活ができます。
月5万円のアルバイト
時給1000円として
・1日5時間で週3日
・1日8時間で週2日
拘束時間が少なく、負荷が無い仕事であれば、70歳を越えても働くことができます。
就職するにしても、ストレス無く働ける職場であれば、経済的に不安を感じることが有りません。
健康を維持し、余裕資金で、趣味や平日の旅行など、会社時代にできなかった行動が取れそうです。
会社人生の転換期を経験
50代で就労観は一変します。
この時期、仕事に対する意義を失い、迷う経験をします。
仕事に取り組む価値観の変化を、著書の中で、調査データ等を使い、解説しています。
“ししとう”も就業観の転機を経験しています。
やりがいを持って行っていた仕事から外され、意図しない営業現場へ異動しました。
従来のままの自分で、いられないと気づいた時、
これまでの就労観をいかに転換するかを体感と感情で理解しました。
会社に貢献していると信じていても、人それぞれ、理不尽と感じる出来事で、
自分の位置を思い知らされ、居場所が狭まり、会社との関係を見直し始めます。
しかも、この体験は、少数者のストーリーではなく、
多くの人が、この変換に真摯に向き合い、うまく乗り越えて行くことを、
著書の中で、データを交えて解説していました。
同様な体験をした仲間がいて、それが多数派だと言う事を知り、正直驚きました。
自分の立ち位置を認識する
2つの事を実感として経験し転機を迎えます。
・必要な生活費が小さくできることに気づく
・今の仕事に意義を失う
ちょうどこの時期に、子供が独立し、教育費が無くなり、住宅ローンは完済します。
一生懸命稼がなくても、十分やっていけることに、ふと気づきます。
年金を受給し始めると、必要とする生活費の不足額が小さいと気付きます。
働くにしても、
過度なストレスが無い
難しい仕事をしない
好んで、小さな仕事をするようになります。
会社の言うことに、服従して働かなくてもよいのではと考え、
働くにしても組織に属さず、小さく個人で働く方法も、選択肢に入ってきます。
著書の中では、そのような転換点の気付きと、別の生き方や働き方の発見を、
ある程度の期間をかけて熟成させて辿り着くとも言っています。
著書の実例インタビューの人たちは、会社人生の苦難をバネに、新たな世界へ飛び込んだ
著書の実例インタビューでは、小さな仕事で幸せに働いているエピソードを紹介しています。
それぞれ、社会人デビュー、定年前後の変化の経験から、
小さな仕事に幸福感を感じるまでのストーリーが語られます。
会社の幹部職や、公職の上席者が、
退職後、その地位にふさわしい職に就いているわけでは無いのです。
会社で得た知識や技術、経験から離れ、今までの分野と違う仕事に就いている事が多いです。
社会経験で獲得した、利害関係者との調整に長けた、対人能力。
周囲との摩擦を避け、物事を進める対自己能力。
そのようなシニアの持つ人間力で、職場に馴染む姿が見えてきます。
彼らは、みな、生活を支える現場仕事に携わっています。
インフラ設備修理
小学校の代替教員
デイサービス送迎
職場寮の管理人
運動施設の運営
包丁研ぎ
現状の働く環境は、緊張や義務感を感じることは有りません。
会社時代のような重責、ストレス、自分の考えに反する指示などの圧力もありません。
インタビューをした皆が、仕事がうまく行かなかった時、
昇進が行き詰まった時の状況や感情を、丁寧に言語化し説明していました。
定年後の就業者の多くが、無理なく働き、豊かな生活を両立させ、
幸せな暮らしをしていることを、知ることができます。
そして、同じ働き方や価値感を持つに至ることが、興味深く感じました。
■「定年退職後は、可能であれば再就職したいけど、一旦お休みしたい」とお考えであれば・・
定年後の小さな働き方が、社会全体の経済に好影響を与えている
定年後の小さな仕事を積み上げて行くと、社会全体の経済に好影響をもたらします。
シニア世代の就業者が生み出す付加価値額に、存在感が増しています
2007年と2019年の対比グラフです。
一部の働き盛りの男性が大きな価値を生み出す社会から、
幅広い年齢と仕事で価値を生み出す社会に変貌しています。
シニア就業者の小さな仕事の積み重ねが、経済を支えているのです。
そうは言ってもキャリアアップやキャリアの持続を目指す人びとがいます
一定数の人は、50代の環境変化の時に、会社の外へ出る決断をします。
定年前の処遇に満足できず、社内で積み上げた経験、知識、地位を信じて、
外の世界に活路を見出そうとするのです。
ところが現実は、自分が信じる自身の価値と、転職市場での価値にギャップがあります。
多くの会社員が従事しているデスクワークは、
全体の仕事の中で、大きな比率を占めておらず、60歳の前で、次の世代に譲る仕事になっています。
近年、デスクワークは、DX化、AI化が進み、就業者規模は縮小し、
新しいテクノロジーを使いこなす、若手が担うような流れが見えてきています。
一方、現場仕事を中心に、小さな仕事のニーズは、多く存在します。
それらの仕事は、慢性的に人手不足感のある職種に多く見られます。
直接、人々に価値を提供する現場仕事は、体力負担を軽減する省力化技術は進みます。
但し、省人化までは技術的課題があり、今後も仕事としてのニーズは残り続けます。
キャリアアップや持続を前提とした50代の市場価値は低く、厳しい転職活動となります。
また同様に、50代で早期退職などの退職勧奨に乗って、会社を去るのは厳しい選択と思います。
60歳定年で得られる権利を取得して、会社を去る選択の方が優位と思います。
■「定年退職後は、可能であれば再就職したいけど、一旦お休みしたい」とお考えであれば・・
まとめ
定年後の就業者の多くが、
無理のない仕事と豊かな生活を両立させながら暮らしており、
数々のデータ分析と多くのヒヤリングから、その事が分かってきました。
急速な高齢化が進む日本経済であっても、
小さな仕事を積み重ねていくことで、持続可能な経済活動を担うことができています。
定年後の小さな仕事が、必要不可欠なものとして、日々の暮らしに埋め込まれており、
現実の経済を支えていることが、データから見えてきます。
ほとんどの就業者は、会社での自己実現、キャリアアップ、出世競争など、
働くことで、自己を拡張させることに力を注いでいました。
その就業感から卒業する時期を、誰しもが経験しています。
それは、感情的な痛みを伴うものが多いと思います。
その変化の衝撃を、多くの人びとが、乗り越え、価値観の転換を経験して、
小さく緩やかに働き、幸せの境地にたどりつく事が、
データ分析で明らかにしている事は大変興味深い内容でした。
自分は、ひとりじゃない、多くの共感できる仲間がいる。
そんなことに気づいた本でした。
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